もしも古事記の神々が人間だったら・・・【35】

神武東遷 ≪その三≫

さて神武ですが、全てが整って最初に目指したのが安芸(広島)地方です。
そこに7年滞在したと記されています。
安芸も、現在の広島とは様子が違います。
現在の平坦な市街地のほぼ全ては海の中で、山裾に沿ったわずかな傾斜地しかなかったようです。
おそらく湾奥に陣を構えて、広島・山口から島根県西部地方を制圧したのでしょう。
それにかけた時間が7年というのは納得できます。
その一帯をなんとか従えたのでしょうが、地続きの東に吉備という大きな「親スサノヲ勢力」がいました。
ここが「親スサノヲ」と考えた理由は、スサノヲを祀る神社が日本一多いことによります。

吉備も現在の地形とはずいぶん違います。
玉野市から鷲羽ゴルフにかけては島でしたが、現在の平野部はやはり海の中でした。
吉備津神社は島で、対岸は総社辺りまで海が入り込んでいました。
神武は吉備で8年を費やしています。
その間に岡山・兵庫県を制圧したと思われます。

ところがさらに東に、もっと強大な勢力がいました。
ナガスネヒコ率いる奈良盆地勢力で、ここは孤高の勢力圏だったようです。
スサノヲが出雲勢力圏を作り上げることができたのは、ナガスネヒコの信任を得たことによると考えています。
つまり奈良盆地には、出雲族の後ろ盾であったナガスネ族がいたのです。

現在の地形では、奈良盆地と海はずいぶん離れています。
でも当時は、生駒山系のすぐ近くまで海が入り込んでおり、現在の国道170号線辺りが海岸線だったようです。
古事記は神武の停泊地を「白肩津(しらかたのつ)」と記していますが、現在の東大阪市日下町辺りです。
神武軍はそこでナガスネ軍に迎撃され、兄のイツセは矢傷を負います。
その時の彼の言葉が「自分は日の神の子でありながら日に向かって戦ったことが間違いで『賤(いや)しい奴』の矢で重傷を負った。迂回して日を背にして戦おう」です。
「日に向かう・背にする」というのは戦物にはよくある表現ですからどうでもいいのですが、『賤しい奴』という表現に注意が必要です。

神話部分では、国つ神が天つ神に敬語を使っています。
他方天つ神は、命令口調で語りますが明らかな蔑称を使ってはいません。
奈良盆地勢力との戦いでは、天つ神の「上から目線」が明確になります。
これらの理由は「身分差の明確化」ではないでしょうか。
出雲族のトップであったスサノヲは、高天原族トップのアマテラスとの間に子供をもうけています。
ですから出雲勢力を下に置くとしても、ある程度の敬意を払ったと思われます。
ところが奈良盆地に住む部族は、アマテラスとは全く無関係の単なる敵に過ぎませんから、形式的敬意すら示す必要はなかったのではないでしょうか。

・・・つづく

カテゴリー: 連載を読む, もしも古事記の神々が人間だったら・・・ タグ: , , , , , パーマリンク

もしも古事記の神々が人間だったら・・・【35】 への3件のフィードバック

  1. 神武東征は、年代的にいつ頃になるのでしょう? 海抜がそんなに違っていた時代? それから、先導したとされるヤタガラスは、九州から同行したのではないのですよね? きっと、すでに三輪山に祀られ、畝傍山を根城とし、奈良側から、、、神武を導く道筋を迎え入れるように導いた?

    • 古事記おじさん のコメント:

      コメントありがとうございます。

      神武東征、私は紀元前100~紀元200頃のどこかと考えています。

      その頃の海面は現在より5~7m高かったようです。
      フラッドマップでご覧になって下さい。
      現在内陸部である所に「津」・「鼻」といった地名が多々ありますが、
      フラッドマップの海岸線と一致するケースが多々あります。

      また地元の古老に聞きますと「昔はこの辺りまで海が来ていたと聞いている」
      との返事が返ってくることも多々あります。

      貴方のお住まいが分かりませんが、地元を調べてみてください。

      私は「ヤタガラス」は比喩と受け止めています。
      鳥のカラスではなく、あのような役割を果たした「人間」をそのように表現した
      のではないでしょうか。

  2. ご回答ありがとうございます (^-^
    わたしも八咫烏はもちろん比喩だと

    好きな本に茂在寅夫『古代日本の航海術』小学館
    という記紀に出てくる船のすべての名前の由来を調べ
    角川春樹と古代建造船の通りに遣唐使船を造り実際に
    航海実験もしたことのある航海士の方いて、

    その方は八咫=I’ATA=聖なる女神:古代ポリネシア語の
    流入と解いていて、古代九州への渡来住民と海流、慣習と
    言語においての一致の指摘でとても興味深い著述を出されて
    います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。