古事記おじさんの『21世紀の視点で古事記を読む』【87】

―「神話部分」を読む ― 大国主神 ⑪ 根の堅州國 – 6 –

故其所寝大神聞驚而。引仆其室。
(かれ その み寝ませる大神 聞きおどろかして、そのむろやを 引きたふし給ひき。)

寝ていたスサノヲがその音で目を覚まして追いかけようとしたので、(髪が結び付けてあった垂木が引っ張られて)部屋が崩壊してしまった。

聞驚(ききおどろかして)=驚いたのではなく、(眠っていたので)音を聞いて目覚めた。

結椽髪之間。遠逃。
(しかれども たりきに 結へる み髪を とかする間に、遠く 逃げ給ひき。)

だが垂木の髪を解いている間に(二人は)遠くに逃げ去っていた。

故爾追至黄泉比良坂呼謂大穴牟遅神日。
(かれ ここに よもつひらさかまで 追ひいでまして、はろばろに 見さけて オホナムヂの神を 呼ばひて のり給はく。)

(スサノヲは、根の堅州國の出口である)ヨモツヒラサカまで追いかけてきたが、遥か彼方を走るオホナムヂに呼びかけた。

黄泉比良坂は黄泉の国と顕国(うつしくに)との堺であるから、この大神(スサノヲ)は堺を越えることはできない。だからそこから(逃げ去る二人を)遠望して声をかけた。

其汝所持之生大刀生弓矢以而。汝庶兄弟者。追伏坂之御尾。亦追撥河之瀬而。
(その いましが 持ちたる いく太刀・いく弓矢を もちて、いましが あにおとどもをば、坂のみをに 追ひふせ、河の瀬に 追ひ払ひて、)

「お前が持っているその太刀と剣で、お前に抵抗する部族を追い散らして(服従させ)、

坂之御尾(さかのみを)・河之瀬(かわのせ)=御尾も瀬も言葉の綾で、単に坂と河。「あちこち」というのをこのように表現しただけ。

意禮爲大國主神。亦爲宇都志國玉神而。
(おれ 大国主の神となり、また うつしくにたまの神と なりて、)

この地域の指導者となり、更には全国(近畿以西)の指導者となって、

意禮(おれ)=人を賤しめる詈称(のるな)。今なら「テメーとかオメー」といった感じ。

其我之女須世理毘賣爲嫡妻而。
(その あが娘 スセリ姫を むかひめとして、)

そこにいる我が娘スセリ姫を正妻として、

於宇迦能山之山本。於底津石根宮柱布刀斯理。於高天原冰椽多迦斯理而居是奴也。
(うかの山の 山もとに、そこつ岩根に みやばしら ふとしり、たかまのはらに ひぎ たかしりて をれ こやつよ とのり給ひき。)

宇迦の山の麓に立派な御殿を立てて暮らせ。」と言った。

宇迦能山(うかのやま)=出雲ノ国出雲ノ郡宇賀ノ郷。山は郷の西にあり出雲ノ御埼山(鰐淵山)まで続いている。
現在の出雲市西林町・東林町・美談町・国富町・口宇賀町・奥宇賀町・別所町一帯?

底津石根宮柱(そこついはねに みやばしら)=古代は神の宮も人の家も穴を掘って柱を立てた、それに対する称辞。
布刀斯理(ふとしり)=ただ広く大きいという称辞。
於高天原(たかまのはらに)=単に高いことを云う古語。
冰椽(ひぎ)=千木。
多迦斯理(たかしり)=宮造りの称辞。
是奴(こやつよ)=先の意禮(おれ)に相対している。
今なら「この野郎」といった感じ。

意禮も是奴も(スサノヲが)内心では褒めているから敢えて蔑んだ表現をしている。
今でもそのようなことは多いから分かるはずである。

スサノヲはオオナムチを娘婿として認めているから、親しみを込めてタメ口で語りかけていると云うことでしょう。

・・・つづく

※注:
青字 … 本居宣長『古事記伝』より
赤字 … 古事記おじさんの見解です。

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古事記おじさんの『21世紀の視点で古事記を読む』【87】 への2件のフィードバック

  1. 命主末孫 のコメント:

    はじめまして。 興味深い内容で、楽しく拝読致しております。
    偽書・創作歴史書が数多く存在する中、自分なりに始祖・先祖のことを探っております。
    これからの記事を期待しています。

    命主27世孫 滋野貞主の子孫 拝

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