もしも古事記の神々が人間だったら・・・【16】

スセリヒメ≪その三≫

スセリヒメ

翌日、オオナムジは何事もなかったように『蛇の室』から出てきます。
普通なら絶対死ぬ場所から元気に現れたのですから、スサノヲは驚きます。
そこで翌夜は『ムカデとハチの室』で寝ろと命じます。
普通の者は、この部屋から無事に出てくることはできないはずです。
でもオオナムジは、スセリ姫からもらった『虫除け』の「比礼」のおかげで、またまた元気に現れます。

室内のテストではダメだと、スサノヲはオオナムジを戸外に連れ出します。
そこで草原に向かって矢を放ち、その矢を拾ってくるようオオナムジに命じます。
オオナムジは「これなら楽なものだ」とでも思ったでしょう、矢が落ちた所へスタスタ歩いて行きます。
スサノヲは百戦錬磨の大王ですよ、若造が思うような甘い男ではありません。
オオナムジが草原に入り込んだのを確認すると、草原の周りに火を放ちます。
これには、さすがのスセリ姫でも救う方法はなかったのです。
「あのお方は、殺されてしまう」と、泣く泣く葬儀の準備に取りかかります。

やがて燃え盛っていた炎が消え、真っ黒い焼け野原が現れます。
スサノヲも「今度ばかりは生きては戻れまい」と、焼け跡を眺めています。
すると、たなびく煙の中から、矢を手にしたオオナムジが姿を現します。
オオナムジは、ネズミに「地面に空いた穴にもぐり込めば助かる」と教えられたのでした。死んだとあきらめていた恋人が生きて帰ってきたのですから、スセリ姫は全身で喜びを表したはずです。
でも古事記はその場面にはいっさい触れず、「スサノヲはオオナムジを家に連れて入った」と、実に素っ気ない書き方をしています。
ここに二人の劇的再会の感動場面を入れると、「オオナムジとスセリ姫は相思相愛」の関係だったと認めることになります。

お読みいただいてお分かりと思いますが、二人の出会いからここまでを、あえて詳しく描きました。スセリ姫はオオナムジに一目惚れし、躰を投げ出し、添い遂げようと自分にできる全てを提供しています。
これに対し、オオナムジがスセリ姫をどう思っていたかは分かりません。
古事記の編者は、わざと分からないような表現にしたようです。

家の中で、スサノヲは自分の髪についているシラミを取れと命じます。
シラミとは体長2ミリほどの小さな寄生虫ですから、それを取るのに危険はありません。ところがスサノヲの髪にいたのはムカデでした。
日本にいるムカデは人を殺すほどの毒はないそうですが、うじゃうじゃいる所に指を入れれば何匹にも刺されて手が使えなくなるでしょうね 。
この難問もスセリ姫に助けられ、クリアします。

・・・つづく

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