―「神話部分」を読む ― 須佐之男命の大蛇退治 ④
爾速須佐之男命。
(かれ はやすさのをのみこと、)
そこでスサノヲは、
乃於湯津爪櫛取成其童女而。刺御美豆良。
(すなはち そのをとめを ゆつつまぐしに とりなして、みみづらに ささして。)
娘を櫛に変身させてミズラに刺し、
このようにした理由が分からない。
告其足名椎手名椎神。
(その あしなづち、てなづちのかみに のりたまはく。)
アシナヅチ・テナヅチに命じた。
汝等醸八鹽折之酒。
(いましたち やしほをりの酒を かみ、)
「お前たちは何度も醸造した強い酒を造れ。」
且作迴垣。
(また かきを 作りもとほし、)
「また垣をめぐらし、」
於其垣作八門。
(そのかきに やつのかどを作り、)
「その垣に八つの門を作り、」
毎門結八佐受岐。
(かどごとに やつの さづきを ゆひ、)
「門ごとに八つの桟敷を作り、」
毎其佐受岐置酒船而。
(その さづきごとに さかぶねを置きて、)
「その桟敷ごとに酒桶を置き、」
毎船盛其八鹽折之酒而待。
(ふねごとに その やしほをりの酒を もりて 待ちてよと、のりたまひき。)
「各酒桶にその強い酒を満たして待っていろ。」
故随告而。如此設備待之時。
(かれ のりたまへる ままにして、かくまけそなへて 待つときに、)
そこで命じられたとおりに準備して待っていると、
其八俣遠呂智信如言來。
(かの やまたをろち、まことに 言いしがごと きつ。)
そのヤマタノオロチが、本当にアシナヅチの言葉どおりに現れた。
乃毎船垂入己頭飲其酒。
(すなはち ふねごとに、おのもおのも かしらをたれて、 その酒を のみき。)
(オロチは)すぐさま各酒桶に自分の頭を入れ、その酒を飲んだ。
於是飲醉死由伏寝。
(ここに 飲み えひて、みな 伏し寝たり。)
そして酒に酔い潰れて眠りこけた。
爾速須佐之男命抜其所御佩之十拳剣。
(すなはち はやすさのをのみこと、そのみはかせる とつかつるぎを 抜きて、)
そこでスサノヲが身に帯びていた剣を抜いて、
切散其蛇者。
(そのをろちを 切りはぶり たまひしかば、)
そのオロチを切り刻んでしまうと、
肥河變血而流。
(ひのかは 血になりて 流れ、)
肥の川の流れは血に染まった。
故切其中尾時御刀之刅毀。
(かれ そのなかのをを 切りたまふとき、みはかしの は かけき。)
そして中ほどの尾を斬った時、剣の刃がこぼれた。
爾思怪。以御刀之前刺割而見者。在都牟刈之大刀。
(あやしと おもほして、みはかしの さきもちて、さしさきて みそなはし しかば、つむがりのたち あり。)
不審に思い、剣の先を差し込んで切り開いてみると、立派な太刀があった
故取此大刀。思異物而。白上於天照大御神也。
(かれ このたちを とらして、あやしきものぞ とおもほして、あまてらすおほみかみに まをしあげたまひき。)
太刀を取り出したが不思議な物だと思い、アマテラスに報告して献上した。
是者草那藝之大刀也。
(こは くさなぎのたち なり。)
これがクサナギの太刀である。
・・・つづく
※注:
青字 … 本居宣長『古事記伝』より