古事記おじさんの『21世紀の視点で古事記を読む』【3】

― 言葉が人間を進化させ、文字が歴史を作った ―

人間と他の生物との決定的な違いのひとつが、「ある個体が得た情報を、他の個体に伝える」ための『情報伝達能力』だと思います。
ちょっと硬い表現になりましたが、簡単に言えば「人間は『身振り』『手振り』『言葉』『文字』で、自分の思いを伝えることができる」ということです。
アリやハチなどの昆虫や猿や象などの群れで暮らす動物も、ある程度の情報伝達能力を持っているそうです。でも、人間ほどには細かく具体的に伝えることはできず、その後の進化の差となったようです。

人類の祖先が地上に現れたのは数百万年前と言われていますが、アフリカに現代人の祖先とされているホモ・サピエンスが現れたのは10万年前頃とされています。
6~4万年前頃、彼らの仲間が中東から南部ヨーロッパに移住したとされていますが、5万年前頃には他の仲間が東南アジアへ移住し、4~3万年前頃にそこから中国・オーストラリア・日本列島に移住したとされています。彼らは『身振り』『手振り』で情報を伝え合い、それに音声が加わって徐々に『言葉』へと発展させたようです。
つまりホモ・サピエンスだけが複雑な『言葉』を持つようになり、更に『文字』を使用するようになったのです。

人間が文字を使い始めた時期に関しては諸説ありますが、主流は6千年ほど前の新石器時代後半の青銅器が使われ始めた頃、中東メソポタミア(イラク・クウェート)地方で使用されていたとするものです。それが元になり、各地域に広がったようです。

日本列島へはユーラシア大陸東部で使用されていた文字が伝わった訳ですが、中国だけではなく他の地域の文字も伝わっていたとする説もあります。
しかしながら残されている文字としては古事記に使用されている漢字が最古ということになっています。漢字は仏教伝来に伴ってもたらされたとされていますから、紀元500年頃のようです。日本人はメソポタミアに遅れること4千数百年で文字を使用し始めた訳で、文字使用という点では当時の日本列島はとんでもない後進地域だったということです。
ですから日本列島各地に住んでいた部族にとって、4~3万年前から1500年前頃までの間は言葉だけが情報伝達手段で、各部族は伝承により情報を語り継いでいたのです。

古事記が完成したのは約1300年前ですから、日本人は約200年をかけて文字を使用する環境を整えたのです。これに大きく貢献したのが文字を伝えた渡来人でした。
この渡来人を受け入れて文字の普及を図ることができるのは、彼らに衣食住を提供できる立場の者だったはずです。これを分かりやすく言うと『権力者』となります。
ですから文字がもたらされた頃の日本には『権力者』がいたのです。
おそらくそれが、今では『大和朝廷』といわれる権力の初期段階だったと考えられます。権力者は、権力を継続させるために『権力の正統性』を証明しようとするのが常ですが、それが『歴史』の作成です。
つまり音だけの『伝承』を文字による『歴史』とすることで、権力の正統性を確定させたのです。

・・・つづく

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