もしも古事記の神々が人間だったら・・・【19】

スセリヒメ≪その六≫

前回、古事記はスセリ姫を「嫌な女」に仕立てようとしているように思えると書きましたが、実際に当時の誰もが「嫌な女」と思っていたのなら、日本最初の歴史書に取り立てて書く必要はなかったのではないでしょうか。
本当は、スセリ姫は「嫌な女」などではなく、逆に「慕われる女」だったと思います。
そのうえ、西日本の各部族が認める「古代出雲王国の正当な血筋の人物」なのです。

なんとか出雲侵略を果たした高天原族でしたが、古代出雲地方全てを完全支配した訳ではなかったでしょう。
これは、大国主が大社(おおやしろ)を要求するときの言葉「自分は隠れましょう」「私の配下の部族は、コトシロヌシが(高天原族に)仕えれば、背かないでしょう」の部分から推測できます。
大国主は「私は表舞台から去るが、コトシロヌシが貴方達に従えば配下の部族達も従うでしょう」と言っています。
これは出雲地方のあちこちに抵抗姿勢の部族がまだいる状態だということです。
高天原側も、大国主の「従うであろう」との推測に賭けなければならないほどに、各部族の抵抗に手を焼いていたのではないでしょうか。

ここで国譲りの最終場面の流れを説明します。
<1>高天原の軍事司令官(タケミカヅチ)が「国を譲れ」と要求してきた。
                ↓
<2>大国主は「私には決められないから息子に聞いてくれ」と言った。
                ↓
<3>コトシロヌシは「差し上げます」と答えて青柴垣に隠れた。
                ↓
<4>もうひとりの息子タケミナカタは戦うが、負けて諏訪に逃げる。
                ↓
<5>大国主が「国は譲るが、自分の住む所を作って欲しい」と要求。
といった具合です。

<3>の部分の、コトシロヌシが「青柴垣(あおふしがき)」に隠れた行動ですが、
「コトシロヌシは、大国主が決断できなかった出雲引き渡しの決断者となった。そのために、出雲にいることはできないと早船で伯耆の東の山中に逃げた。その山が青柴垣で、現在の鳥取県倉吉市福庭の波波伎(ははき)神社の地」との伝承が波波伎神社に残されています。

ですから、大国主が「住む所を作って欲しい」と要求したとき、コトシロヌシはその場にはいなかったはずです。
波波伎神社の伝承が事実なら、コトシロヌシの言うことを聞く部族はほんの一部だったと思えます。つまり大国主の言う通りになるかどうか疑わしい状態です。
そんな状態の中での大国主の要求に対し、出雲攻めの現場責任者では答えを出すことはできなかったはずです。
常識で考えれば、大国主を本国に連れて行き、指導者に判断してもらったはずです。
このとき、先王スサノヲの娘で連れて行かれた王の妃であるスセリ姫がどこでどうしていたかを古事記は記していません。

このような混乱状態で、「敵の言いなりになるのは嫌だ」と考える部族があちこちにいる場合を想像してみてください。
部族は「スセリ姫を中心にまとまろうとする」のが、自然の成り行きです。

高天原族は、スセリ姫の扱いに困ったはずです。
スセリ姫を殺してしまえばいいようなものですが、そんなことをすれば出雲族を構成する全部族が怒り狂い、全滅覚悟の戦いを挑んでくるでしょう。
太平洋戦争終結のとき、アメリカが天皇をどう扱うか困ったことと似たような状況だと思います。

それに西日本各地の部族にも「根絶やしにする気なら、徹底抗戦」との思いを持たせてしまう可能性があります。
高天原族は、出雲制圧後は西日本各地の部族制圧に乗り出すのですが、徹底抗戦されれば高天原の犠牲が増えます。それでも、部族単位の抵抗では高天原には力及ばないでしょう。
高天原族が最も恐れたのは抵抗勢力の一本化だったはずですが、その一本化の中心として最もふさわしいのがスサノヲの娘スセリ姫だったと思われます。

そこで出された結論が「王妃の地位から外し、出雲国内ではあるが、中心から遠い地域に住ませて監視する」中世ヨーロッパでよく行われた「幽閉」の、ゆるやかなものだったようです。

王妃から外すということは正妻から外すということですが、それには一応それなりの「理由」が必要です。
高天原はその「理由」を、「新たな正妻」としました。
新たな正妻は、「出雲族の正当な血筋」スセリ姫を外さなければならないほどの身分の者でなければなりません。
となると、高天原族最高位のタカミムスヒの娘以外に考えられません。
日本書紀に、タカミムスヒが大国主に「お前がもし国つ神(=スセリ姫)を妻とするなら、私はお前がなお心をゆるしていないと考える。それで、いまわが娘のミホツ姫をお前に娶(め)あわせて妻とさせたい。八十万の神たちをひきつれて、永く皇孫のために守って欲しい」と命じたと書かれています。

・・・つづく

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